ブライアン・ジョンソンの自己免疫性胃炎と、バイオハックの本当の価値
最も有名なバイオハッカーであるブライアン・ジョンソンが、自己免疫性胃炎を公表した。
公表は2026年6月末から7月初旬。本人の投稿や報道によると、正式に診断がついたのは2026年5月らしい。つまり、何年も前から知っていて隠していたというより、長年の謎だった低フェリチンの原因が、最近ようやく見つかったという流れである。彼は11年間、貧血はないのにフェリチンが低く、食事や鉄サプリでもなかなか改善しなかったという。最終的に、抗壁細胞抗体や胃の生検などから、自己免疫性胃炎が確認された。
自己免疫性胃炎とは、胃酸を出す壁細胞などが自己免疫によって攻撃される病気である。胃酸が低下すると鉄の吸収に影響が出やすい。また、内因子の低下によってビタミンB12吸収にも問題が起こり、進行すると悪性貧血や神経症状につながることもある。研究レビューでも、自己免疫性胃炎では鉄欠乏がよく見られ、ビタミンB12欠乏より先に出ることがあるとされている。
このニュースは、バイオハック界隈では皮肉っぽく受け取られるかもしれない。「あれだけ健康に金と時間をかけているのに病気になるのか」と。
しかし、これは少し雑な見方だと思う。
バイオハックを「完璧な生活をすれば、すべての病気を防げる技術」だと考えるなら、たしかにこれは失敗に見える。でも、身体はそこまで単純ではない。遺伝、自己免疫、感染歴、臓器ごとの脆弱性、ホルモン、吸収、炎症。これらは、食事や睡眠を整えたからといって、全部きれいに消えるものではない。
むしろ今回の件は、バイオハックの価値をよく示している。
つまり、彼は「低フェリチン」という小さな異常を、単なる鉄不足で終わらせなかった。鉄を足しても上がらない。ヘモグロビンは正常。でも何かがおかしい。そこで、大腸内視鏡、上部内視鏡、血液検査、生検へ進み、胃の自己免疫という構造的な問題にたどり着いた。
ここが重要である。
血液検査の数値が低いと、私たちはすぐに「その成分を足す」という発想になりやすい。フェリチンが低いなら鉄。ビタミンDが低いならビタミンD。マグネシウムが足りなそうならマグネシウム。
もちろん、それで改善することもある。ただ、数値は単なる不足表示ではない。体のどこかのシステムがうまく働いていないサインかもしれない。低フェリチンは、鉄摂取不足ではなく、胃酸低下、慢性炎症、出血、吸収障害、自己免疫の表現かもしれない。
バイオハックの本質は、病気にならない魔法ではない。自分の体で何が起きているのかを、より早く、より精確に知るための技術である。 ブライアン・ジョンソンの自己免疫性胃炎は、その意味でかなり象徴的だ。完璧な生活でも病気は起こる。しかし、継続的に観察していれば、普通なら見逃される異常を掘り当てられる可能性がある。
「数値を最適化する」のではなく、「数値の背後にあるシステムを読む」。
今回のニュースから学べるのは、そこだと思う。フェリチンを測ることも大事だが、それ以上に大事なのは、低い数値を見たときに「何を足すか」だけでなく、「なぜそうなっているのか」と考えることである。
バイオハックは全てを解決する魔法ではない(当たり前だけど)。
ブライアンはバイオハックを通じて、より精確に自分を知ることに成功した。それ以上でも以下でもない。